コラム1
123 こだわりは長所か短所か
こだわりは有効
信州そばという名称がブランドになっているくらい長野県にはそば屋が多い。それぞれの店ごとにこだわりを持っている。店構えは古民家を移築改装し、森の中にひっそりと建ち隠れ家の雰囲気がある。
そばは10割にこだわりつなぎを一切使用しない。だしは鰹節をふんだんに用いて少々辛目のつゆで食べれば適度のこしと喉ごしの良さからおいしく味わえる。好みによって辛味大根を加えれば全く別の味が楽しめるという。器は地元の陶芸作家の作品を使用するこだわりを持つ店もある。
一般にそば屋は昼食時のみ開店し、その日に仕込んだそばが完売したら閉店という店もあれば、仕事帰りに一杯とか接待、少人数の宴会向けに夜11時まで開店しているところもある。
こだわりという言葉は飲食店に限らず数多くの分野で使用されている。自然食品、キッチン用品、家具家電、自動車、住宅などにもこだわりという形容詞がつき、こだわり保険というものまであらわれた。
こだわりといえば芯が通っていて一貫している、真面目でコツコツ、他との差別化が図られているような感じである。ここではこだわりという言葉が良い意味で使用されている。
またこだわりといえばアスリートに多く見られるルーティンがある。良く知られているところでは大リーグのイチロー選手である。バッターボックスに入り右手でバットを立ち上げてから左手でユニフォームの右肩部に触れる仕草である。
スタート前にボルト選手が十字を切ってから天に向かって何かをつぶやく仕草、体操の内村選手が跳馬の際両手を前に突き出し何か角度でも測っているような仕草、琴奨菊は最後の仕切りの前に後ろに大きく反って胸を開く仕草、五郎丸選手の忍者のような仕草などは良く知られている。
これらはこれから始まるパフォーマンスを高めるために緊張をほぐし、集中するために行われている。スポーツ科学からメンタル面で有効な動作といわれている。
過去の成功体験や験を担ぐところからきているだろうが、はっきりとしたこだわりの現れである。
こだわりは病気
アスペルガー症候群の症状のひとつにこだわりが強い特徴がある。自分が決めた予定や手順、置き場所などを変えることを嫌い、無理に変更しようとすればパニックを引き起こす。子供だけでなく大人になって発症する事もあり、圧倒的に男性がかかりやすい病気である。
パニックまで起こさないにしても物や事にこだわるところは誰にでもある。こだわりのそば屋は店主が自分の仕事にこだわっている証だろう。
仕事へのこだわりは自分基準で仕事を行う場合が多い。そのこだわりは細部にわたる。細かいことに自分基準でこだわればチームのメンバーはついていけない。
仕事は一人で完結することはなく品質、コスト、納期が定められ後工程に引き渡される。自分は正しいと思い込むことは自己中心的でわがままと他人には映るだろう。当然のことながらチーム内、後工程とは摩擦が生じ、責め合うことで互いに傷つく。良いと思っていたことが否定されるのは大きなショックである。
仕事にこだわる者は完璧主義者かもしれない。多くの人に受け入れられず、理解される僅かな人とは深い交友関係が育まれる。
こだわりが強い人はチームで仕事をするのが苦手であるが、ひとつのことをトコトン納得のいくまで時間を忘れて没頭することがある。このような人に向く仕事としてコンピュータプログラマー、広告デザイナー、職人全般、統計学者等といわれている。永年の功績が認められて受賞される方は相当こだわりが強い人かもしれない。
物事に対しきっちりと手を抜くこともなく面倒くさがらず行えるのはこだわりの強い人のなせる技である。
物にこだわる
物に対してこだわりを持つ人は事に対してより多いだろう。男性のこだわりの逸品といえば時計、万年筆、帽子、ネクタイなどの小物から趣味に関するグッズなどである。音楽が趣味であれば楽器、CD、スピーカー、写真が趣味であればカメラ、パソコンなどであろう。
特に車が趣味であれば取説から仕様書まで全て頭に入れ、内装、オプション、タイヤ、ホイール、アクセサリーまでこだわりぬく人がいる。趣味とこだわりは相性がよく、こだわればこだわるほど喜びが増していく。
趣味と道楽は金に糸目をつけないといわれるが、こだわりに比例してお金が出て行くことになる。ここでケチったら本物ではないと自分に言い聞かせる。二流品ではなく一流品でなければならない。
物にこだわるのは男性ばかりではない。女性はバッグ、アクセサリー、靴、洋服など身に付ける物にこだわりを持つ。飲み会に行ったら同じジャケットを着ていれば最悪の気分になり、2度とそのジャケットを着ないかもしれない。
「安物買いの銭失い」を信じ大量に販売されているファストファッションを敬遠し、あまり出回っていないブランド品を選択する。身に付けるものに限らず家具、小物、キッチン用品、食品などに懲りだしたらお金は貯まらない。健康、美容、自分へのご褒美と理由を付けて正当化する。
ゴルフが趣味の知人がいる。最近はクラブが進化し、自分のヘッドスピードに適したクラブをカスタムメイドができると聞き、ドライバーを含めアイアン、パターなど一式買い換えた。
次にそのブランドにあわせてウェア、シューズ、バッグを揃えていけば、プレーに回すお金がなくならないかと余計な心配をした。
その時は他に類を見ないほどの一流品であってもしばらくすれば必ず次のモデルが発売される。もしくは使用しているうちに少しずつ傷ついてくる。すると途端にこれまでのものが陳腐化する。一流品にこだわる人ならば新モデルに心が奪われる。
こだわりは煩悩のひとつ
こだわりは執着である。一旦執着が生まれるとそれが正しいか間違っているかが分からなくなる。執着を手放そうとすると惜しくなり、手放そうとしない理由をあげ、あらゆる手段を用いて抵抗する。
こだわりとは合理的、客観的な判断の邪魔をして、狭い視野で物事を見ようとし変化を嫌う。判断基準は自分の好み、習慣、偶然の思い込みなどである。
いつしかこだわり自体が自分と一体化することがある。こだわりが生きがいであり、自分の存在はこだわりによって証明されるという考えである。これは自分に安心と満足を与える。
本来こだわりは否定的な意味で用いられた。それがこだわりがあるから美味かろう、良かろう、長持ちするであろうと肯定的に受け止められた。
こだわりがある人は芯がしっかりしていて、ブレることがなく一貫している。徹底して顧客に尽くしてくれれば良いが、身勝手なこだわりのおかげで多くのお金を払わされるのは遠慮願いたい。身勝手なこだわりで振り回される周囲は良い迷惑である。
仏教の教えに「一切皆空」があり世の中の物事は全て「空」であるといっている。空の意味を自分なりに解釈すると、現代の名工といわれる人が長時間かけて作った時計だとすれば、その価値を認めた人には生涯の宝物となるだろう。
しかしある人にとっては時を刻む道具でしかなく、またある人にとってはガラスと鉄で出来た加工品でしかない。要するに受け手によって物はどんな風にも受け止められるので、時計には形はあるが価値はない。
人も同様で職場の上司はできる人と部下は尊敬していても、配偶者は家事が出来ない夫、子供からみれば母親から小言を言われているが上手くねだれば何でも買ってくれる都合の良い親に映る。相手がどう受け止めるかは本人と相手との関係次第で、本人には固定的な実体はない。
こだわりは自分勝手の先入観、偏見、思い込みであるから、そんなものに振り回されるのは空しい。もっとフラットな気持ちで物事に接したほうがお金もかからず楽な生き方ができそうだ。
長野日報土曜コラム 平成28年11月26日掲載
有限会社テヅカプラニング 手塚英雄
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